丁寧な仕事を、現場でどう生かすか|舘野雄二が師から学んだ料理長の判断
丁寧に作ることと、時間に間に合わせること。その両方を求められたとき、何を見て判断すればよいのでしょうか。
外の現場で7年間修業し、道場六三郎さんのもとへ戻った舘野雄二さん。身につけた仕事を生かそうとするなかで、師匠から問われたのは、料理の作り方だけではありませんでした。
白和えの衣を裏ごししていたときのこと。芋の調理に、別の方法を示されたときのこと。『料理人から、食卓へ』第三話から、舘野さんが料理長としての判断を学び、人と働くことを考えてきた経験をたどります。
話し手:舘野雄二(和食料理人/道場六三郎 最後の弟子)
聞き手:今別府靖子(料理研究家・栄養士)
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師匠に叱られてわかった、料理長に必要なこと|道場六三郎 最後の弟子・舘野雄二【料理人から、食卓へ|第三話】
※本記事は、第三話の対話を抜粋・再構成したものです。発言は意味と語り口を保ちながら、言い直しや重複を整理しています。見出し、地の文、末尾の問いは記事編集上の文章です。道場さんの言葉は、舘野さんが振り返った内容として紹介しています。再生位置は、公開動画の該当する話題への入口を示しています。
口当たりをよくしたい。その仕事を、師匠に止められた
第二話では、外での7年間があったからこそ、師の料理の良さに気づけたと語った舘野さん。第三話では、戻った厨房で、自分の仕事の進め方を問い直すことになった経験を振り返ります。
外の現場で繰り返し教わったのは、細かな目で裏ごしする仕事でした。口当たりをよくするために、手間をかける。その方法が、舘野さんの中に身についていました。
戻った店は、『料理の鉄人』で道場さんが注目され、とても忙しい時期。舘野さんは、本人の言葉でいう「料理長代行みたい」な立場にありました。
そこで白和えの衣を裏ごしするよう指示していたところ、道場さんがやって来ます。
舘野(道場さんの言葉を振り返って):「お前、この時間で間に合うわけないだろ」
丁寧に仕上げようとしていたはずの仕事が、なぜいけなかったのか。道場さんは舘野さんを呼び、こう伝えたといいます。
舘野:お前の言うことは確かに分かると。でもさ、今どういう状況かを読めないようじゃ、料理長になるわけないだろって言われて。
「お前の言うことは確かに分かる」。その言葉を含めて聞くと、口当たりをよくしたいという考えそのものを否定された話ではないことが分かります。
問われたのは、その方法を、今この厨房で選ぶべきなのかということでした。自分がよいと思う仕事だけでなく、残された時間や、その場の状況を見る必要があったのです。
この話を動画で見る:15:34〜「7年の修業後、師匠に叱られた理由」
https://youtu.be/ftzKvLgozQI?t=934
やり方を変えたら、仕上がりはどうなるのか
同じように、自分が身につけた方法を見直すことになったのが、芋の調理でした。
舘野さんが、それまで教わってきた手順で時間をかけて仕上げようとすると、道場さんは圧力釜を使う別の方法を示します。実際に食べてみるよう促し、舘野さんが身につけた方法で作ったものと比べて、どのくらいの仕上がりなのかを問いかけました。
舘野:今その時にどうできるかって判断できないような料理人は、人の上には立てないんだよっていうのを、こんこんと言われて。
このやり取りは、いつも手間を省けばよいという話ではありません。手順にこだわるだけでなく、別の方法でできた料理を実際に食べ、仕上がりを確かめる。そのうえで、目の前の状況に合う仕事を選ぶことが求められていました。
7年間で学んだ仕事を、ただそのまま再現するのではなく、今の現場でどう生かすか。舘野さんが突き当たったのは、方法を知っていることと、方法を選べることの違いだったとも読めます。
この話を動画で見る:17:02〜「手間をかけることと、その場での判断」
https://youtu.be/ftzKvLgozQI?t=1022
自分の作業だけでなく、周りの動きにも目を向ける
対話では、料理を作る手順だけでなく、一緒に働く人への伝え方も話題になります。
舘野さんが挙げるのは、自分の仕事に気を取られ、厨房の中で周囲にぶつかってしまう人への注意です。熱いものや包丁を扱う場所では、本人だけの問題では済まない。年齢や立場の違いから、若い人が注意しにくいこともあると話します。
舘野:僕が言わなかったら、みんな言わないから。
初めて料理長になった頃には、自分は最後になだめる役になり、周りから尊敬される存在でいたい、という思いもあったそうです。しかし、差し支えない程度に伝えるだけでは、うまくいかなかったと振り返ります。
一方で、伝え方については、チームワークや受け取る側のこともあり、「一概には言えない」「怒り方にもよる」とも語っています。
この話は、「強く叱れば人は育つ」とまとめられるものではありません。舘野さんが何を危険だと感じ、なぜ自分が伝えなければならないと考えたのか。伝える内容と、その伝え方の難しさを分けて受け止めたいところです。
この話を動画で見る:04:59〜「思いやりと、叱ることの難しさ」
https://youtu.be/ftzKvLgozQI?t=299
続く話題:08:54〜「料理長になって気づいた、伝える責任」
https://youtu.be/ftzKvLgozQI?t=534
厳しいだけではなかった、師匠の声かけ
舘野さんの記憶に残る道場さんは、厨房で厳しく指摘する人であると同時に、若い料理人を気にかける人でもありました。
19歳で入門した頃。まだ寒い時期に、生牡蠣の殻を洗う仕事をしていた舘野さんにも、道場さんは声をかけたといいます。
舘野:「お前、元気でやってるか」とか言って、こう、優しいんですよ。
舘野さんだけでなく、ほかの若い料理人にも、それぞれに声をかけていた。そうした日々の様子を、舘野さんは覚えています。
営業が始まると厳しい顔に変わる一方で、忙しい厨房の仕事をどう進めるか、方法そのものにも手を入れていく。対話では、焼き物の準備にオーブンを取り入れる工夫も語られます。
仕事を厳しく見ること、やり方を考え直すこと、一緒に働く人へ声をかけること。舘野さんの回想には、そのいずれもが含まれています。厳しいひと言だけを切り取ると見えにくい、師匠との日々がありました。
この話を動画で見る:13:02〜「優しい師匠と、厨房での厳しい顔」
https://youtu.be/ftzKvLgozQI?t=782
「俺はできなかったです」と、振り返る
師から教わった判断について、舘野さんは、最初からできていたとは話しません。
舘野:俺はできなかったです。
学生時代にバスケットボールのキャプテンを務めたときも、周りの得意不得意や、今何をすべきかを十分に考えられず、勢いで進んでいたと振り返ります。
若い頃の負けん気の強さを語る場面では、道場さんから言われた言葉も紹介しています。
舘野:「謙虚」っていう言葉を、ちゃんと調べろ。
この対話で印象に残るのは、教える立場になった舘野さんが、教えられた側の自分の未熟さも隠さないことです。自分の考えていた仕事を見直すのは、簡単ではなかった。その過程を、今の言葉で語っています。
第二話では、外での経験を通して、師の仕事の見え方が変わりました。第三話では、その経験を持って戻った自分が、厨房で何を見るべきだったのかを問い直します。学んだことを、現場で使える判断へつなげていく。その途中にあった戸惑いと気づきが伝わる対話です。
「謙虚」をめぐる話を動画で見る:03:41〜
https://youtu.be/ftzKvLgozQI?t=221
この対話から考えること――編集側からの問い
料理を丁寧に作りたいという思いを、忙しい現場でどう生かすか。そして、自分の作業を進めながら、周囲で起きていることにもどう目を向けるか。
学校の実習や日々の厨房、家庭での料理にも重ねながら、次の問いを考えてみてはいかがでしょうか。以下は記事編集側が用意した問いで、出演者の発言ではありません。
自分が「丁寧な仕事」だと思っている作業は、何のために行っているのでしょうか。
時間が限られたとき、何を変え、何を守るか。その判断には、どんな情報や確認が必要でしょうか。
周りの危険や困りごとに気づいたとき、相手に伝わるように、どんな声をかけられるでしょうか。
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記事について
出典:『料理人から、食卓へ』舘野雄二さん編・第三話
元動画公開日:2026年9月20日
話し手:舘野雄二
聞き手:今別府靖子
企画・制作:有限会社シンクネクスト