7年間の経験が変えた、師の料理の見方|舘野雄二の修業と学び
教わったときには、よく分からなかったことが、別の仕事を経験してから腑に落ちたことはありませんか。
学校での実習や、厨房で繰り返す仕事。その意味を、教わったその場ですべて理解できるとは限りません。違う方法に触れた後で、以前の教えが違って見えることもあります。
道場六三郎さんのもとを離れ、7年間、外の現場で修業した舘野雄二さん。再び師匠のもとへ戻った理由を語るとき、舘野さんは、離れていた間に経験した昔ながらの仕事を振り返ります。
外で何を経験し、それまで見ていた師の料理が、どう見えるようになったのでしょうか。『料理人から、食卓へ』第二話から、修業と学びにまつわる対話をたどります。
話し手:舘野雄二(和食料理人/道場六三郎 最後の弟子)
聞き手:今別府靖子(料理研究家・栄養士)
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7年離れてわかった、師匠のすごさ|道場六三郎 最後の弟子・舘野雄二【料理人から、食卓へ|第二話】
※本記事は、第二話の対話から「修業と学び」に関する部分を抜粋・再構成したものです。発言は意味と語り口を保ちながら、言い直しや重複を整理しています。見出し、地の文、末尾の問いは記事編集上の文章です。道場さんの言葉は、舘野さんが振り返った内容として紹介しています。
思い描いていた和食とは、違っていた
舘野さんが道場さんのもとを一度離れたのは、入門から4年ほど経った頃のことでした。
舘野:ちょっと違うのを見たいなんて、生意気に思っちゃって。
当時、本や人の話から思い描いていたのは、昔ながらの仕事を守り、厳しい修業を重ねていく和食の世界。ところが、目の前の道場さんは、そのイメージとは違う料理を出していました。
果物を組み合わせた料理。よそではポン酢で出す生ガキに、グリーンソースを合わせる料理。舘野さんは当時、「これが和食か」と感じたといいます。
舘野:よそはポン酢で出してるのに、なんでこんなのを出すんだろう、みたいな感じで。それで、ちょっと一回外で修行してみようと思って、出たんですよ。7年間。
若い舘野さんが思い描いていた和食と、道場さんの厨房で出会った料理。その違いから、外の現場を見てみたいという思いが生まれました。
この話を動画で見る:01:37〜「師匠のもとを離れ、外の世界へ」
https://youtu.be/4RejJa9dvg8?t=97
外の現場で経験した、昔ながらの仕事
外へ出た舘野さんが経験したのは、道場さんのもととは異なる仕事の進め方でした。
大きなすり鉢を使って、味噌をのばす。大根の皮はピーラーを使わず、包丁でむく。便利な道具があっても、手仕事で行うように求められる現場だったと振り返ります。
舘野:そこはもう「全部すり鉢でやれ」。
料理を作ることは同じでも、使う道具や、一つの仕事にかける手間は違う。舘野さんは、そうした昔ながらの仕事や考え方に触れながら、7年間を過ごしました。
7年間の経験があったから、師の料理の良さが分かった
なぜ、再び道場さんのもとへ戻ったのでしょうか。舘野さんが挙げたのは、師匠の料理や仕事の「合理性」でした。
舘野:合理性から言ったら、道場の方の料理がいいんじゃないかということで戻った。結論から言うと、戻ったんですよ。
舘野さんは、将来を予測して判断したわけではなかった、とも話しています。そして、今あらためて振り返ると、外で過ごした時間の意味が見えるといいます。
舘野:でも今思えば、その7年間やった、いろんな昔の仕事とか昔の考え方があったからこそ、道場の料理がどういいのかっていうのに気づかされた、というのがあったんですよ。
「合理性」を理由に戻ったことと、外での経験を今どう受け止めているか。舘野さんは、その両方を語っています。
昔ながらの仕事を経験したからこそ、便利な道具も使い、型にとらわれず料理を考える道場さんの良さに気づけた。7年間は、師のもとで見ていた仕事を、違う目で捉える経験になっていたのです。
この話を動画で見る:04:14〜「7年離れて気づいた、師匠の料理の良さ」
https://youtu.be/4RejJa9dvg8?t=254
「どうしたら早くできるか」を考える
道場さんの合理性は、便利な道具を使うことだけではありません。舘野さんが繰り返し聞いてきたのは、限られた時間の中で、どう仕事を進めるかという考え方でした。
「この時間までに終わらせる」と考えたとき、いつもと同じやり方でよいのか。どうすれば、もっと早くできるのか。舘野さんは、師匠の考え方を振り返りながら、こんなやり取りをしています。
今別府:すごい、合理的な考えなんですね。
舘野:よく「10年経てば、大体いろいろできるんだ」っていうのを、「5年でやれ、3年でやれ」。そういった考えをしていかないと、どんどん伸びていかない。
舘野さんがここで語っているのは、決まった年数を過ごすだけでなく、仕事の方法を考え、工夫していく師匠の姿です。
この言葉を、誰もが同じ速さで成長しなければならないという基準に置き換えるのではなく、舘野さんが師の仕事をどう受け止めてきたのか、その文脈の中で聞きたいところです。
教わった意味が、後になって見えてくる
7年間の修業を経て戻ったからといって、その時点ですべてを理解できたという話ではありません。
今別府:やっぱり偉大な存在なんですかね。
舘野:そうですね。初めは、言われることに対して何も気づかなかったし。今だからこそ、言われたことがどういうことかっていうのを知ることができている、理解できている。60歳過ぎてですよ。
外の現場を知ったときに分かったことがあり、さらに年月を重ねてから分かるようになったこともある。舘野さんは、師から教わったことを、今も自分の経験と重ねながら受け止めています。
教えを振り返る対話を動画で見る:06:47〜「『10年を5年で』――今だから分かる教え」
https://youtu.be/4RejJa9dvg8?t=407
対話の後半では、若い料理人の得意なことをどう見つけるか、一緒にゴミ捨てや掃除をするのはなぜか、という話へと広がります。教わる側から、人とともに働き、育てる側へ。その立場から語られる言葉も、動画で聞くことができます。
この対話から考えること――編集側からの問い
この話を、「厳しい修業に耐えれば成功する」という一つの教訓にはまとめられません。舘野さんが語っているのは、異なる現場で仕事を経験し、それまで見ていた師の料理の良さに気づいていった過程です。
今は意味をつかめていない学びについて、経験を重ねながら考え直す。同時に、分からないことを誰かに尋ねたり、別の方法と比べたりする。そんな入口として、自分の授業や仕事に重ねてみてはいかがでしょうか。
以下は、対話を受けて記事編集側が用意した問いです。出演者の発言ではありません。
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以前は分からなかったけれど、経験を重ねて意味が分かった教えはありますか。
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今教わっていることを、もう少し理解するために、どんな経験をしてみたいですか。
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まだ理由をつかめていない仕事について、誰に、何を聞いてみたいですか。
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https://youtu.be/ftzKvLgozQI
記事について
出典:『料理人から、食卓へ』舘野雄二さん編・第二話
元動画公開日:2026年9月13日
話し手:舘野雄二
聞き手:今別府靖子
企画・制作:有限会社シンクネクスト